ザ・ベスト・オブ・山種コレクション I

#971

2026/10/15

爽やかな秋の一日、山種美術館(恵比寿)で「ザ・ベスト・オブ・山種コレクション I ―横山大観、竹内栖鳳から上村松園、速水御舟へ―」を見てきました。

まずは例によって、山種美術館のサイトから本展の開催趣旨を引用します。

山種美術館は1966(昭和41)年に開館し、本年で60周年を迎えました。これを記念する特別展の第3弾では、山種コレクションの核である近代日本画の傑作をご紹介します。

当館のコレクションは、山種証券(現・SMBC日興証券)の創立者・山﨑種二(1893-1983)が個人で集めた作品が基礎となっています。目まぐるしい相場の世界に身を置いていた種二は、絵画鑑賞を「こよなき楽しみ」としていました。やがて自身で購入したいという望みが湧き、なかでも真贋に間違いのない同時代の日本画家による作品の収集を始めます。種二は、「絵の値打ちは作者である画家の人柄に負うところ大だ」という信念のもと、横山大観、上村松園、小林古径、安田靫彦、山口蓬春ら、名だたる画家たちと親しく交際しながら、一大コレクションを築き上げました。その後も所蔵作品の拡充を図り、現在約1,800点を所蔵しています。

本展では、重要文化財に指定されている竹内栖鳳《班猫》と村上華岳《裸婦図》を筆頭に、上村松園《蛍》、川端龍子《鳴門》、土田麦僊《大原女》、福田平八郎《筍》をはじめ、コレクションのなかでも名品中の名品を厳選して展示します。また、種二が長年の夢であった美術館設立を決意した際、特別に購入を許されたという横山大観《心神》や小林古径《清姫》など、当館の歴史を物語る名画もあわせてご覧いただきます。山種コレクションの魅力がたっぷりと詰まった展覧会をお楽しみください。

◎以下、作品名が《太字》のものはフライヤーに掲載されている作品であることを示します。

山﨑種二と親交深かった横山大観が雲海の上に頭を出す雄大な富士山を俯瞰して描いた《心神》を劈頭とし、山種美術館の所蔵品の数々を惜しげもなく展示する本展。誰でも知っている大家の著名な作品や、そうではないけれど確かな審美眼によってコレクションに加えられた作品の数々が並びます。

有名どころの作品のほとんどは過去何度かの山種美術館訪問で見ているものですが、それでも毎度のごとくいいものはいい。冒頭の《心神》を眺めてから、まずはざっと一覧しようと右に眺めていってまず足が止まったのは上村松園《蛍》で、蚊帳を吊る女性が部屋に入ってきた蛍に気づいて微笑みかけるその表情が、縦縞の浴衣に藍で染められた百合の模様と共に優美で、居合わせたご婦人方も「きれいね〜」と感嘆の声をあげていました。

今回の展示で唯一撮影を許可されていたのはこの竹内栖鳳《班猫》(重文)で、モデルとなった実物の猫の写真と見比べてみると絵の中の猫の方がはるかに生き生きとし、エメラルド色の目に意思を感じさせる出来栄えとなっていました。

また、この《班猫》は第1展示室の突き当たりにあり、その右壁には山種美術館の定番作品とも言える土田麦僊《大原女》、《班猫》の左には村上華岳《裸婦図》(重文)と上村松園《砧》が並ぶという豪華さ。謡曲「砧」に題材をとったこの《砧》もまた、都にいる夫に音が届くことを願いながら砧を打とうとする夫人の姿を気品高く描いて魅力的で、これまで「美人画はあまり……」と上村松園を積極的には見ようとしてこなかった自分の不明を恥じました。

これら以外にも優品の数々がひしめく中で、自分の趣味に基づいていくつかを紹介すると、まず《心神》の次に置かれた渡辺省亭《葡萄》の枯れた味わいが好ましく、四季のそれぞれに異なる樹木を通して月を見上げる菱田春草《月四題》の静謐にも惹きこまれ、そしてお気に入りの西郷孤月《台湾風景》ではこれまで目が行っていた近景の檳榔樹と遠景の山の間にあって見過ごしがちだった建物の煙突が鮮やかなブルーであることに気がつくなど、初見・既見を問わず新たな発見が得られました。

小室翠雲《海寧観潮》も今回の展示の見どころの一つです。浙江省杭州湾に注ぐ銭塘江で旧暦8月18日前後の満潮時に海から河へと高潮が遡る「大海嘯」の様子を描いた縦1.2m・横2.4mのこの大作は、年月を経て傷みや縮みが生じ、特に横方向の折れ目が裂け目となることが懸念されていたそうですが、バンク・オブ・アメリカの文化財保護プロジェクトより助成を受けて修復されてから初お披露目となった本作は、まるで描きたての新品のようにすっきりした画面に迫り来る波と船上の人々を躍動的に描いて見応えがありました。

第1展示室の最後には川端龍子の「会場芸術」の面目躍如といった趣の大作《鳴門》を置き、展示は小林古径《清姫》などが並ぶ第2展示室に引き継がれますが、その前に置かれた《新宮殿杉戸楓4分の1下絵》》のカラフルな紅葉の装飾性がいかにも山口蓬春という感じでつい頬が緩んでしまいました。この作品とは後で「Cafe椿」にて再会することになります。

平日の午後でありながら館内はそこそこの賑わいでしたが、皆どことなく楽しそうに絵を見て回っている様子で、もちろん自分もその一人になりながら館内を2周しました。

  • ▲フライヤー表面(左上→右下):川端龍子《鳴門》(部分) / 上村松園《蛍》 / 横山大観《心神》 / 速水御舟《桃花》 / 竹内栖鳳《班猫》(部分)
  • ▲フライヤー裏面(左上→右下):速水御舟《昆虫二題》 / 福田平八郎《筍》 / 村上華岳《裸婦図》 / 小林古径《清姫》のうち「日高川」 / 小室翠雲《海寧観潮》 / 土田麦遷《大原女》

鑑賞を終えた後、美術館の1階にある「Cafe椿」で今回の展示にちなんだ和菓子と抹茶のセットをいただきました。青山の老舗菓匠「菊家」が作った和菓子の名前と絵画の対比は次のとおりです。

和菓子 絵画
秋の夜 上村松園《砧》
蓮はな 村上華岳《裸婦》
冬景色 荒木十畝《四季花鳥》のうち「冬(山澗雪霽)」
雲海 横山大観《心神》
秋のいろどり 山口蓬春《新宮殿杉戸楓4分の1下絵》》

今日セレクトしたのは次の二つです。

秋の夜
静かな秋の夜。夫の帰りを待ちながら、砧を打つ妻。その音がひんやりとした空気を震わせます。そんな風情を和菓子にしました。(胡麻入りこしあん)
秋のいろどり
皇居新宮殿正殿の杉戸絵のために制作された下絵。艶やかに色づく紅葉を、錦玉羹に散りばめました。(ワイン風味錦玉羹・羊羹・淡雪羹)

「秋の」セットというわけですが、「秋の夜」の清楚な佇まいと「秋のいろどり」の原色に近い色彩感覚が対照的ながらどちらも元になっている作品の雰囲気を見事に体現しており、味わいはもとより目にも喜びを与えてくれる二品でした。