Allan Holdsworth

2009/02/06

ギタリストが尊敬するギタリスト、Allan Holdsworthの演奏を初めて聴いたのは、Bill Brufordの初ソロアルバム『Feels Good To Me』(1978年)だったと思います。オープニングナンバー「Beelzebub」やタイトル曲「Feels Good To Me」でその流麗なプレイに触れてまず驚き、さらにBillやJohn Wettonと組んだU.K.(『U.K.』)の「In the Dead of Night」でのロングソロ、「Nevermore」でのEddie Jobsonのシンセサイザーとの超絶技巧バトルに度肝を抜かれ、引き続きBruford(『One of a Kind』)、さらにはソロ名義で来日した際の演奏を収録したLD『Tokyo Dream』(1984年)までは視聴したのですが、その後はジャズロック系の音楽に興味を抱かなくなったこともあって、縁が遠くなっていました。

ところが昨年、ふとしたきっかけでSTB139(六本木)でのTerry Bozzioのライブを見る機会を得、同じアンドフォレスト・ミュージックがAllan Holdsworthの来日もプロモートしていることを知り、久しぶりに彼の音楽に触れてみることにしました。今回の来日メンバーは、上記の『Tokyo Dream』と同じく、ベースにJimmy Johnson、ドラムにChad Wackerman。ちなみにChadはTerry Bozzioと同じくZappaスクール出身のドラマーで、その縁かどうか2人での共演映像もあったりしますが、それはそれは恐ろしい光景です。

定刻15分前に会場のSTB139に着いて、とりあえずビールを注文。ステージを見ると、Chadのドラムセットはずいぶんシンプルで、ワンバス、ツータム、ツーフロアタム。そして彼の特徴とも言うべき小径のエフェクトシンバルが一切ない、ストレートなセットでした。やがて定刻になって、主催者の注意事項説明と挨拶があり、いよいよ3人が登場。AllanはSteinbergerっぽいヘッドレスでサイレントギターのように胴が中空のYAMAHAのスペシャルギター、かたやJimmyは20年以上前から愛用しているとても美しいAlembicの5弦ベースです。3人の見た目は、Chadは変わらず若々しく、Jimmyは相応に老けてずいぶん痩せた感じがしましたがサラサラの長髪を後ろでまとめたヘアスタイルはそのままで、そしてAllanは顔の彫りが若い頃よりさらに深くなっているものの雰囲気は変わっていません。

以下、演奏は前半5曲、休憩をはさんで後半4曲、そしてアンコール1曲の合計10曲で2時間。2曲目と3曲目はAllanのMCで曲名がアナウンスされ、それぞれ「Fred」「Water on the Brain」ということでしたが、正直に言うと彼のソロワークは『Tokyo Dream』に収録された曲しか知らず、その多くを占めたボーカル曲(TempestのPaul Williamsが歌っていました)はこの日演奏されていないため、なじみがあったのはわずかに後半の3曲目の途中、Jimmyが高みの見物と決め込んでAllanとChadが激しいバトルを展開した後に、「Home」のテーマが聞き取れた程度でした。それから、前半最後(5曲目)は珍しくロックっぽいダイナミックなリフ(なんとなくTotoの「Gypsy Train」を連想)から入る曲でしたが、これは後で調べたら「Red Alert」ですね。この曲が派手に終わったときには、3人で大笑いしていました。

まぁしかし、Terry Bozzioのライブのときにも感じたことですが、Allanのギターは実に個性的。ボリュームペダルでアタック音を消し、ロングディレイ / リバーブ系のエフェクトでストリングス的な音を作った上に、ただでさえ長い指を思い切りストレッチさせ、あるいは逆にフレットボードの狭い領域に詰め込むようにして摩訶不思議なヴォイシングのコードが次々に展開すると、今度はあり得ないほどよく動く薬指と小指をフルに使い、ハンマリングやプリングでシングルトーンの高速ソロがひゃらりらと垂れ流されるといったことの繰り返し。それだとどの曲も同じに聞こえてしまうはずですが、Chadのドラミングが、あるときはダイナミックにタムやクラッシュをひっぱたき、あるときはハイハットで心地よくシャッフルし、さらにはマレットによるシンバルロールでムードを作り……とカラフルで飽きさせず、そこにJimmyのレンジの広い艶やかなベースも重なってきて、最後まで楽しく聴かせてくれました。それにしても特筆すべきは、3人の息の合い方。音楽の性質上、それぞれがソロに入るとかなりの長さにわたってフリーな演奏が展開するのですが、節目ごとに3人が短いアイコンタクトと笑顔を交わすことで、ぴったりとアンサンブルに回帰します。もちろん聴衆も心得ていて、そうした場面ではソロイストに対して自然な拍手が湧き上がりました。また、たとえば後半最初の曲では、途中で一見自由なドラムソロと見えながら、実は激しいドラミングを展開するChadと壁際に立ったJimmyとの間にタイム感が共有されていて、ひそかにJimmyがベースでコードを進行させていたことに気付いて驚いたりもしましたし、一番気持ちが良かったのは、アンコール前の最後の曲。今度こそフリーなドラムソロが延々と続いた後に、ふっとJimmyの方に顔をあげたChadがある気配を見せ、こちらも思わず心の中で「1, 2, 3, 4」とカウントしたところバンドもジャストで3人の演奏に戻ったときは、自分とステージ上との間に距離を越えた一体感を覚えました。

アンコールには、復弦タッピングを多用したイントロが印象的な「Tokyo Dream」を期待したのですが、残念ながらそうはならず、それでも演奏終了後には満足の拍手を送ってから、会場を後にしました。

なお、例によってアンドフォレスト・ミュージックでチケットを購入した客には、下の写真のプレゼントがありました。ギタリストが見ればAllanの足元がずいぶんすっきりしていることに驚くかもしれませんが、彼はエフェクトの切り替えを右手のテーブル上に置いたスイッチ群で行っていました。

ミュージシャン

Allan Holdsworth guitar
Jimmy Johnson bass
Chad Wackerman drums