John Wetton
2012/01/17
2000年代の前半に見舞われたアルコール依存も含む深刻な体調不良を克服し、2005年頃から精力的な音楽活動に復帰したJohn Wettonの来日ライブを、私は2006年以降毎年のように観ています。2006年はWetton/Downes、2007年、2008年、2010年はAsia、そして2011年はU.K.で。
今回は、JWが治療に専念する直前の悪夢のようだった2003年のステージ以来のソロ名義での来日で、サポートメンバーは彼のツアーでは定番のJohn Mitchell(It Bites)とMartin Orford(IQ)、そしてドラムはSteve Alexander。この最後の名前にピンと来たのは私だけではないと思いますが、Jeff Beckが凄腕ギタリストJennifer Battenを起用してリリースした異色作『Who Else!』に参加していたドラマーで、同アルバムのプロモーションツアーでの来日ステージを私も観ていますが、なかなかに華麗なドラミングが印象的だった記憶があります。
開演時刻の40分ほど前にオールスタンディングの狭い渋谷クラブクアトロに入ってみれば、会場内は意外に空いていて、カウンター状にしつらえられているリザーブ席のすぐ後ろに立ち位置を占めることができました。ステージに向かってやや右(上手)寄りで見通しはよく、中央奥のSonorのドラムセットや上手のキーボード(下段がRoland A90、上段がKORG CX-3)もはっきり見えています。そしてかかっているBGMは、なぜか怒濤のRushメドレー。入場したときは「Big Money」でしたが、そこから「Force Ten」「Time Stand Still」「2112(Overture〜Syrinx)」「Closer to the Heart」「La Villa Strangiato」「Freewill」。なんで?そして、その「Freewill」のベースソロに入る直前で会場が暗転し、歓声の中にメンバーが登場しました。
皆、白いシャツ姿にパンツは黒(MOだけはデニムのジーンズ)、JWのベースとJMのギターもボディーがブラック。そうしたモノトーンのせいだけでなく、実際にJWの顔立ちはすっきりスリム化しており、節制が効いていることが窺えます。オープニングは、事前の情報の通り「Heart of Darkness」でした。以下、いつものように1曲ごとに解説することは避け、ポイントだけ挙げると次のような感じです。
- セットリストはこのページの下方に記した通りですが、どのアルバムから選曲されたかを見てみると、意外に『Welcome To Heaven』からの曲が多く、最新作『Raised In Captivity』から選ばれた曲は少ないことがわかります。
- 『Red』(King Crimson-1974)から:#14
- 『Caught in the Crossfire』(1980)から:#4
- 『Asia』(Asia-1982)から:#2,15
- 『Alpha』(Asia-1983)から:#12
- 『Battle Lines』(日本では『Voice Mail』-1994)から:#10
- 『Arkangel』(1997)から:#7
- 『Welcome To Heaven』(2000)から:#1,3,5,6,9
- 『Omega』(Asia-2010)から:#13
- 『Raised In Captivity』(2011)から:#8,11(『Arkangel』からの再録)
- 音のバランスがイマイチ。JWのベースは凄い音圧とサステイン(しかもところどころベースペダルを重ねていました)で、演奏自体も良かったのですが、その代わり(?)ボーカルがオフ気味で歌詞があまり聴き取れませんでした。確かに少々粗っぽい歌い方になってもいましたが、それでもアコースティック楽器をバックにしみじみ聞かせる場面を聴けばJWのボーカルは必ずしも調子が悪かったわけではなかったので、ミキサーの問題だったのでしょう。
- お約束の「キミタチサイコダヨ」は、1曲目と2曲目の間で早くも披露。
- 4曲目「Cold Is the Night」は、JW曰く彼の「ファーストソロ」である『Caught in the Crossfire』からというレア(?)な曲。比較的淡々とした曲調でしたが、その代わりベースにかなり自由に歌わせていました。
- 続く「Another Twist of the Knife」は、三声のアカペラからスタート。楽器群が入ってからの演奏も気合が入っていて、会場はかなり高揚しました。この日一番の出来だったかも。
- 「Arkangel」ではJWはベースを置いて身軽になり、JMもアコースティック12弦に持ち替え、ドラムはお休み。また、続く「Steffi's Ring」ではJWもアコースティックギター。ドラムはマレットで叩かれ、シンセサイザーのパンパイプ風の音色と共に、南米の民族音楽っぽい曲調になっていました。さらに「Real World」はアコースティックギター2本でフォーク調。
- アコースティックセットが終わって、原曲とは微妙にアレンジが異なる「Battle Lines」。いつ聴いても、いい曲です。この曲の中で、JMにメインボーカルをとらせる場面もあり、そこではやはりJWが自由にベースで遊んでいました。
- 「After All」は、津波被害に対するチャリティーソングとして『Raised In Captivity』に再録された曲。そのことをJWが紹介すると、会場から「Thank you!!」の掛け声が掛かりました。
- Asiaソングの「Don't Cry」は、なぜか高速演奏。そのせいかどうか、単調で意外につまらない曲だなという印象を持ってしまいました。ついでに、じっくり聴きたい「Don't Wanna Lose You Now」も原曲に比べるとかなりテンポが速くて、JMがちらちらとSAの方を見ていたのは「速過ぎるよ!」という意味だったのかも。違うかな?
- King Crimsonファンにとっては、「Starless」は白眉となったことでしょう。もう少しメロトロンの音色をラウドにして欲しかったところですが、ベース演奏に関しては文句なしでした。ただ、終盤のギターソロ(原曲ならサックスソロ)の変拍子パートを聴くと、SAのドラムはスネアのインパクトが強いからなのかもしれませんが変拍子を変拍子として叩いていて、原曲でBill Brufordが聴かせたシンバルワーク主体の流れるような自然なリズムにはなっていないことを痛感。やはりBill Brufordは別格なのか?
アンコールの「Heat of the Moment」もあっさり目に演奏されて、終わってみれば正味80分強と短いショウでしたが、John Wetton健在を思わせる芯の通ったライブでした。特にベース演奏は良好で、ベーシストJW復活を感じさせるもの。遠目だったので使用機材が何だったのかわからない(ZONのベース?)のですが、あの音圧とサステインは強烈でした。ただ、ソロ名義でのライブではむしろシンガーとしてのJWを聴きたいので、この日のPAには疑問符がつくところです。
戦いすんで、日が暮れて(開演時にはもう日が暮れていたけど)。そしてBGMはまたもRushの「The Spirit of Radio」。
これが話題の「忠実Tシャツ」。たぶんJWと日本のファンとの双方向の「loyalty」を表現したかったのでしょうが、「忠実」というのはちょっと語感が違うような……。
そして、配られていたフライヤーの中に入っていたのがこれ。いよいよ本当のU.K.の来日です。
ミュージシャン
John Wetton | : | vocals, bass, guitar |
John Mitchell | : | guitar, vocals |
Martin Orford | : | keyboards, vocals |
Steve Alexander | : | drums |
セットリスト
- Heart of Darkness
- Only Time Will Tell
- Where Do We Go From Here?
- Cold Is the Night
- Another Twist of the Knife
- Space and Time
- Arkangel
- Steffi's Ring
- Real World
- Battle Lines
- After All
- Don't Cry
- Don't Wanna Lose You Now
- Starless
-- - Heat of the Moment