Portnoy, Sheehan, MacAlpine, Sherinian
2012/11/14
Dream Theaterの創設者で超絶技巧の持ち主でもあるドラマーのMike Portnoyが、他のメンバーとの諍い(?)から25年間にわたって自分が牽引してきたDream Theaterを去ったのは、2010年のこと。その後、彼ほどのドラマーがこのまま消えるはずはないと思っていたら、意外なメンバーの組合せでの来日が報じられました。
- Billy Sheehanは、言うまでもなくMr. Bigでの活躍で日本でも人気が高いベーシスト。一昨年には、Eddie Jobsonのプロジェクトでも来日しています。
- Derek Sherinianは、Dream Theaterに一時期在籍したキーボードプレイヤー。そのプレイは、彼のリーダーバンドであるPlanet Xのライブで見たことがあり、強烈な印象を受けました。
- そのPlanet XのメンバーとしてDerekと共にステージに立っていたのが、超絶技巧ギタリストのTony MacAlpineです。ちなみに、このPlanet XのドラマーVirgil Donatiと、上述のEddie Jobsonのプロジェクトで同じステージ上に立ったMarco Minnemann及びMike Manginiの3人は、いずれもMike Portnoyの後任を募集するDream Theaterのオーディションに応募しており、その結果Mike ManginiがDreamファミリーの一員の座を射止めているという因縁があります。
早い話が、ロック界屈指のテクニシャンばかり4人が集まってのインストゥルメンタルライブ、ということです。これは行っておかないと……ということでZepp Tokyoに足を運びました。事前の情報によると、彼らのここまでのツアーではBrufordの「Hell's Bells」やJeff Beckの「Led Boots」等も演奏されていたそうですが、この日は果たして?
会場に入ると、ステージ上は上手側に一段高く、Mikeにしては小さめのドラムセット。セットはステージ中央に向かっており、客席からはMikeを左手側真横から眺めるかたちになります。その左手側にはセカンドスネアと彼には不可欠のオクタバン、右手側にはゴングバスも。下手側も高くなっていて、そちらはキーボードがステージ中央に向かって2台、客席に向かって1台、袖に向かってハモンドオルガン。Derekはキーボードを特殊なスタンドで斜めに立て掛け、指の動きを聴衆から見えるようにすることが多いのですが、このセットでは普通に鍵盤が水平でした。この2人の間でMike側にBilly、Derek側にTonyの立ち位置が設定されており、そして、ステージ下や会場の2階には複数のカメラ。この日のライブは収録されて、後日CDやDVD等になるそうです。
開演時刻を15分ほど過ぎたところでBGMがはっきり変わり、その音が収まったところに聴き慣れたギターのアルペジオが入ってきました。
- A Change of Seasons: I The Crimson Sunrise
- オープニングは、DerekがDream Theaterに在籍していたときに出した唯一のアルバム『A Change of Seasons』から、同名の組曲の冒頭の部分。ギターのアルペジオの上に途中からキーボードの穏やかなメロディが重なり、そして突如爆発的な変拍子のテーマ部へ。オルガンがいい音を出しています。
- Acid Rain
- そのままシームレスに、Liquid Tension Experimentの「Acid Rain」。MikeとJohn Petrucci、それにJordan RudessとなぜかTony Levinという4人組のテクニカルかつパワフルな曲ですが、この日のメンバーではあくまでも手数の多いドラムの上にリフは高速ユニゾン、さらにベース→ギター→キーボードとダイナミックなソロが回されて、のっけから全開。これは凄い!この曲の後にMikeがMCで
A lot of notes to play
と発言していましたが、まさにそんな感じです。 - The Stranger
- Tony MacAlpineのソロ作から、とことんスピーディーでメロディアスなナンバー。ギターとキーボードとで、1小節にいくつ音譜を詰め込めるかを競うようなユニゾンとソロの応酬がありました。
- Stratus
- 打って変わってこちらは、スネアロールに続いて地を這うようなうねるベースパターンが続くBilly Cobhamの名曲。Jeff Beckも自身のライブでたびたびとりあげているおなじみのナンバーで、Tonyのギターソロも前半は艶やかなサウンドを落ち着いて聴かせるタイプの演奏でしたが、後半はやはり超絶速弾きに。一方のDerekのソロはエレピのアルペジオを下から上へ駆け上がらせてから、ハードなオルガンプレイへという展開。そして最後は、ベースやギターによるこの曲のテーマリフの上でMikeがドラムソロ状態へ。
- Atlantis, Part 1: Apocalypse 1470 B.C.
- Derekのソロ作品『Planet X』からの曲。言葉で説明するのが困難なほど強烈なリズムのキメが後半に入り、その間のブレイクにMikeがユーモア溢れる仕草を織り込んだり客席の手拍子を先導したりで笑いをとる、何じゃこりゃ?な演奏。この日のMCはMikeが一手に引き受けていますが、派手なドラミングも含め、彼は天性のエンターテイナーなのでしょう。
- Guitar Solo / Been Here Before
- マイナースケールでの、しかしちょっと単調だったギターソロ。幅広い音域をカバーするフレージングや艶と伸びがある音色はさすがです。ギターソロには途中でDerekが加わり、さらにリズム隊も入ったところでDerekの曲である「Been Here Before」へシームレスにつながりました。
- Birds of Prey (Billy's Boogie) / Bass Solo / The Farandole
- サブタイトルのとおりBillyのベースをフィーチュアした高速ナンバーから、そのままベースソロへ。圧倒的なサステインを活かし、両手を組み合わせた複雑なタッピングやベース本体のボリュームノブを用いたボリューム奏法なども駆使しながら、相変わらずよくこれだけ弾けるなと呆れるほどの音数のベースソロでした。スネアのスナッピーが共鳴してしまっていたのが、少々耳障りではありましたが……。そしてそのまま演奏は、Billyがハイテクベーシストとしてその名を轟かせることになったTalasでの曲へ。
- The Pump
- 客席に手拍子でリズムキープさせた上で入ってきた、ちょっと意外な選曲。Jeff Beckの『There and Back』に収められていた、スローテンポの比較的淡々とした曲です。この日の演奏ではミドルテンポくらいの速さになっていましたが、アレンジはほぼ原曲通り。
- Drum Solo / Nightmare Cinema / Hell's Kitchen
- Mikeにしてはずいぶんと短めのドラムソロに続いて、変拍子でのイントロから妖しい雰囲気のキーボードリフが続くDerekの曲へ。スピードアップしてのギターとキーボードのソロの応酬は、聴き応えあり!そして自然な流れで、このDream Theatereの曲。アナウンスがなくてもエレピのフレーズですぐに「Hell's Kitchen」とわかり、歓声が一際大きくなります。大きくギターを歌わせることに眼目があるこの曲、TonyはJohn Petrucciのラインをかなり忠実になぞっていましたが、それだけ原曲の完成度が高いということなのでしょう。
- Keyboard Solo / Lines in the Sand
- 相変わらず、シンセサイザーを泣かせたり咆哮させたりすることにかけては、Derekの右に出る者はそうそういないと思わせられるダイナミックで神秘的なソロが5分ほど続き、そのままあの有名なシンセフレーズに客席が歓声をあげる中、名曲「Lines in the Sand」へ。ただしボーカル部を省略したabridgedバージョンなので、若干の違和感は否めません。それでも、曲の終盤でBillyが次々に繰り出す効果音的なベースフレーズのアイデアの豊富さには、目が点になりました。ともあれ、これで本編の終了となり、4人はいったんバックステージへ。
- Shy Boy
- アンコールは1曲だけ、Talasのハードかつシンプルなロックンロールナンバーで、この曲だけボーカル付き。リードボーカルはBilly、コーラスはMikeで、当然客席にも「Shy boy, shy boy!!」と歌わせ、このメインリフの間にギター、キーボード、ベースの腕比べのような掛け合いがあったのですが、ここでトラブル!Mikeの横に置いてあるマイクスタンドの固定が甘いとみたZeppの若いスタッフがマイクスタンドを支えようとしたのですが、マイクを上向きにすればいいのに横向きにさせようとするためにうまくいかず、イライラしたMikeがスタッフに「(自分でやるから)下がってろ!」という指示をしたところ、今度はこのスタッフはマイクスタンドごと引き揚げようとする始末。慌ててマイクスタンドを手で押さえたMikeはブレイクのタイミングを活かしてマイクを確保し、スタッフを怒鳴りつけて下がらせてからコーラスを続けました。演奏終了後には引き下がっていたスタッフに向けてマイクスタンドを投げ倒すほどエキサイトしたMikeでしたが、そんなバトルの中でもリズムを乱さなかったのはさすが。そして、この一部始終をステージの反対側から眺めていたDerekの顔にニヤリといった笑みが浮かんでいたのを、私は見逃しませんでした。
演奏開始から終演まで95分ほどと時間が短く、また最後の最後に予想もしなかったトラブルがありましたが、全体を通して期待に違わない強烈な演奏が展開し、満足度の高いライブでした。それにしても最後のバトル(?)、このライブを映像作品にまとめる際にはどう編集するんだろう?そういう動機不純な興味も持ちつつ(笑)、DVDの発売を待ちたいと思います。
ミュージシャン
Mike Portnoy | : | drums |
Billy Sheehan | : | bass |
Tony MacAlpine | : | guitars |
Derek Sherinian | : | keyboards |
セットリスト
- A Change of Seasons: I The Crimson Sunrise (Dream Theater)
- Acid Rain (Liquid Tension Experiment)
- The Stranger (Tony MacAlpine)
- Stratus (Billy Cobham)
- Atlantis, Part 1: Apocalypse 1470 B.C. (Derek Sherinian)
- Guitar Solo
- Been Here Before (Derek Sherinian)
- Birds of Prey (Billy's Boogie) (Tony MacAlpine)
- Bass Solo
- The Farandole (Talas)
- The Pump (Jeff Beck)
- Drum Solo
- Nightmare Cinema (Derek Sherinian)
- Hell's Kitchen (Dream Theater)
- Keyboard Solo
- Lines in the Sand (Dream Theater)
-- - Shy Boy (Talas)