Simon Phillips
2024/07/16
ブルーノート東京(南青山)で、Simon Phillipsのライブ。3日間6ステージのうち最終ステージを観てきました。同じメンバーで来日した前回の公演が2023年3月ですから1年4カ月ぶりですが、その間に新譜をリリースしてはいないので、今回のライブはこれまで発表してきた楽曲の再演に終始するということになります。しかしそこは高い能力を持つ彼らのこと、これまでとは違う「何か」を披露してくれるはずと期待しながら南青山に向かいました。
Simonの要塞ドラムキットには変化なし。現在の3スネア構成になったのはToto 35th Anniversaryの頃だと記憶していますから、この形で既に10年以上が経過しており、おそらく彼にとっての完成形ということなのでしょう。
他のメンバーの立ち位置も前回と同じく、上手にキーボード、中央にベース、前列は上手がギターで下手がサックス。キーボードやギターには機材のアップデートが見られましたが、基本的な構成はこれまた不動です。
客席最後部のカウンター席右端に陣取ってギネスを飲みながら開演を待つこと30分余り、定刻を若干過ぎたところでメンバーが登場してステージに向かいます。他のメンバーがステージに向かって左側の通路から前方に向かったのに対し、キーボードのOtmaro Ruizだけは右側の通路に向かい、その悠然とした風貌と巨体はどことなくマフィアのような風格を漂わせていました。
以下、演奏された曲のタイトルとそれぞれについての簡単なコメントを。
- Jagannath
- 『Protocol V』のオープニングナンバー。重低音がシーケンスパターンに変化していって、全楽器ユニゾンで一気に切れ込むスリリングな曲。自分が座った席の関係によるのかもしれませんが、とにかくベースの音圧が凄い!そしてなぜかnord stage 2によるエレピソロのピアノ音がひどく割れていて「PAさん、どうした?」という感じ。
- When the Cat's Away
- 同じく『V』から堂々たるミドルテンポの曲。ここではJacob Scesneyがサックスにワウのようなエフェクトをかけて不思議な効果を出していました。エレピの音もここではクリーンに聞こえて一安心。この曲が終わったところでSimon Phillipsが前に出てきて、カンペを手にヘタウマ日本語で挨拶をしてから、メンバーを一人一人紹介しました。
- Pentangle
- 『IV』収録、Alex Sillによるギターのファンキーなカッティングから始まる曲。単音リフになるとギターの音に艶やかさが生まれ、Otmaro Ruizのシンセソロの後にリード楽器3種類がユニゾンでテーマを聞かせた後にドラムソロに移行します。このドラムソロのときにはJacob ScesneyとAlex Sillがキーボードの近くに並んで立ってSimon Phillipsを見守るようなかたちになるのですが、Simonの手数の多いソロの迫力もさることながら、これをぐいぐいとドライブするErnest Tibbsのベースのグルーヴが圧倒的。曲はそのまますごい熱量でエンディングのリフの繰り返しになだれこみ、曲が終わったとたんに客席から大きな歓声が上がりました。
- Nyanga
- 『V』より、エスニックで緩やかなシーケンスパターンから始まる独特な雰囲気の曲。ところどころにオブリガートとして入る金属的な下降フレーズはOtmaro Ruizの右手側のパッドから。Otmaro Ruizのピアノ、Jacob Scesneyのサックスにもソロが割り当てられていましたが、この曲では艶やかでテクニカルな(Alan Holdsworthを彷彿とさせる)ギターソロやスタンドにセットされたZeusでのアコースティックプレー、さらに(遠目にははっきりわかりませんでしたが)EBowらしきガジェットを用いたロングトーンといった具合にAlex Sillが手を替え品を替えて曲に貢献していた点が印象的でした。
- Narmada
- 『III』のオープニングナンバー。タブラパターンから始まりキーボードによる高速レゲエリズムの上でギターが曲をドライブしていくダイナミックなナンバー。この曲ではAlex Sillのギターソロが聞きどころになりました。特にソロの中間に組み込んできたジャジーなカッティングの連続からロックテイストの激しい速弾きへの移行には息を飲みました。
- Guitar Solo / The Long Road Home
- アコースティックギターのフレーズをループさせた一人多重演奏によるギターソロは、それ自体一つの作品と呼べるほど美しいもの。その終盤での強いカッティングによってAlex Sillが場の空気を変わると、高音のギターアルペジオが滑り込んできて、現在の彼らの代表曲と言える「The Long Road Home」(『V』収録)へ。ベースを含むすべての楽器(とりわけピアノ)にソロのパートが与えられている長大なこの曲ですが、圧巻だったのはJacob Scesneyのエモーショナルなサックスソロです。あたかもドゥエンデが憑依したかのごとくに全身全霊をこめて吹き上げる彼のソロには心が震えました。
- Drum Solo / Manganese
- Simon Phillipsが再びマイクをとって、ブルーノート東京のスタッフやこの日の観客への謝辞を述べた後、まずはマレットを使って3つのスネアやタムを中心に組み立てたソロを披露し、いったんデクレシェンドした後にスネア一発からロックテイストの強い「Manganese」の演奏が始まりました。この曲はProtocolバンドの楽曲ではなく、Magna Cartaレーベルから2004年にリリースされた企画盤『Drum Nation』の「Volume One」に収録されたもので、ちょっと脱線した話をすると、2007までの間に「Volume Three」まで出されたこのシリーズにはTerry Bozzio、Bill Bruford、Dennis Chambers、Virgil Donati、Marco Minnemann、Mike Portnoy、Steve Smith、Chad Wackermanといった錚々たるドラマーが名前を連ねています。それはさておき、このハードドライビングな曲ではJacob Scesneyによるオクターバーを駆使したトリッキーなサックスソロが客席を驚かせました。しかし、そんな仕掛けの最後には素の音に戻ったJacobが渾身のブロウを聞かせて聴衆を胸熱にし、最後には全楽器ユニゾンによる複雑なリズムのキメをもって終了です。
事前の予想を超えて、なかなかに熱いライブでした。特にJacob ScesneyとAlex Sillの二人のフロントマンが技巧も情熱も素晴らしく、この日の主役だったと言っても過言ではありません。また、その二人を背後から支えるErnest Tibbsのベースが今までにない音圧でぐいぐいと押してくる感じで、1年前と較べてもまるで別のバンドを見るような新鮮な感動がありました。
ところで、最後の曲に入る前にSimon PhillipsがMCの中で聴衆に対し、今回の来日での全6公演のうち何回来たかということを尋ねていたのですが、実はセットリストは各ステージで異なっていたらしく、後日知ったところではこの日の1回目のステージと2回目のステージとで共通する曲は「The Long Road Home」だけ。1回目に演奏されたそれ以外の曲は「Nimbus」「Solitaire」「Passage to Agra」「Undeviginti」「Moments of Fortune」「Celtic Run」だったそうです。特に19/16拍子のクラーベというトリッキーなリズムを持つ「Undeviginti」はライブではまだ見ていないので、惜しいことをしました。
ともあれ、Simon Phillipsはまだ67歳。この日のステージでその力量がこれまでにない水準に到達していることを示してくれたメンバーたちと共に、新たな作品を創造して再び日本を訪れてくれることを期待したいと思います。
おまけの話。これまでテーブルの上には座席番号がスタンプされた丸いコースターが置かれていて、これを持って精算に向かう仕組みだったのですが、これがいつの間にかカードに変わっていました。コースターだったら自由に持ち帰ることができたのに、ちょっと残念……。
ミュージシャン
Simon Phillips | : | drums |
Otmaro Ruiz | : | keyboards |
Ernest Tibbs | : | bass |
Jacob Scesney | : | saxophone |
Alex Sill | : | guitar |
セットリスト
- Jagannath
- When the Cat's Away
- Pentangle
- Nyanga
- Narmada
- Guitar Solo / The Long Road Home
- Drum Solo / Manganese