眠れる森の美女(バーミンガム・ロイヤル・バレエ団)
2025/06/20
東京文化会館(上野)で、バーミンガム・ロイヤル・バレエ団「眠れる森の美女」(ピーター・ライト版)。このバレエ団の「眠り」を観るのは2018年以来で、そのときと同じくオーロラ姫を踊るアリーナ・コジョカルを観たくてこの日のチケットをとりました。1981年生まれのアリーナ・コジョカルはすでに43歳ですが、あのシルヴィ・ギエムが最後のボレロを踊ったときは50歳でしたからまだまだいけるはず。そして本当は、翌日オーロラ姫を踊る栗原ゆうさんの舞台も観たかったのですが、財布と相談した末に諦めアリーナ・コジョカル一本に絞って当日を待ちました。
ところが、6月9日になってNBSから次のような連絡が届きました。
このたびの公演において、『眠れる森の美女』6/20(金)、6/22(日)の公演にオーロラ姫役で出演を予定していたアリーナ・コジョカル(ゲストダンサー)は、怪我のため来日することができなくなりました。
これは言ってみれば「バレエあるある」で、ファンとしてはとにもかくにもアリーナの回復を祈るべきところです。そして同時にアナウンスされた代演は昨年のバレエ・フェスティバルにも出演したシュツットガルト・バレエ団のエリサ・バデネスで、彼女ももちろんトップダンサーの一人ですから不足はないのですが……。
そんな複雑な気持ちを抱えながら迎えた公演当日、ホールの外にはアリーナ負傷休演のお知らせが掲示されており、さらに開演に先立ってカンパニーのChief Executive OfficerであるPaul James氏が舞台上に現れ、改めてアリーナ降板とエリサ・バデネス代演がアナウンスされました。
以下、舞台進行の様子を記録しますが、演出やプロダクションのあらましは2018年と同様なので、記述はごく簡素なものにとどめます。
プロローグ
毎度思いますが、プロローグのカラボスはオーロラの命名式に呼ばれなくて憤慨しているはずなのに、これ幸いといかにも嬉しそうに皆を恫喝して回るのはどういうことなのか。リラの精の気品に満ちたマイムももちろん美しいものでしたが、プロローグでの主役は人間の暗黒面を抜き出したカラボスとその一味のエネルギッシュなダンスだと思います。
第1幕
エリサ・バデネスはアリーナより11歳下ですが、清楚を絵に描いたようなアリーナ(贔屓目?)とは異なり、豊かな表情とよく動く四肢を通じてアクティブな雰囲気を感じました。ローズ・アダージョではあえてバランスでの静止時間を誇示しようとはせず、プロムナードも3人で終わりましたが、最後にアラベスクへ移る姿の伸びやかさは輝かしいほど。その後のオーロラのヴァリエーションも堂々たるものでしたが、一方、カラボスが扮装した老婆から糸紡ぎを仕込んだ花束を差し出されたときにはびっくりしてぴょこんとお辞儀をしてみせ、その後の浮かれた様子も含めて性格を「王女」から「少女」に一変させた感があり、その振幅の大きさには少し驚きました。
第2幕
ここではオーロラのヴァリエーションで見られた、鞭のようにしなる腕の先でそこだけ別のもののようにひらひらと動く手先が特徴的。夢幻のダンスを象徴するその不思議な動きには、オペラグラスを通じて見入ってしまいます。
第3幕
ディヴェルティスマンの中で、初めて「長靴を履いた猫と白い猫」が楽しいと思えました。今まで観てきた猫たちと何がどう違うのか説明できないのですが、マイムではなくちゃんとダンスになっている感じ。一方で残念だったのは、青い鳥の跳躍の高さを実感するには5階席は向いていないということです。それはともかくグラン・パ・ド・ドゥは、とにかくアダージョが凄かった。連続するフィッシュ・ダイヴでのオーロラの足はこれまで見たことがないレベルの高さに上がって一つ一つのポーズがびしびしと決まり、アダージョが終わった瞬間、ホール内は爆発的な拍手に満たされました。そしてその後のオーロラの蠱惑的なようでもありしとやかなようでもある王子への対し方を見ると、100年の時を経て目覚めたオーロラは16歳のままではなく成熟した女性になっていたことに気づかされました。
すてきな音楽(ところどころ「?」という演奏もあったけれど)、ゴージャスなプロダクション、そしてエリサ・バデネスが個性を発揮したダンス。幕間に「あれではオーロラじゃなくてキトリよね」という声も聞こえてきたものの、今日の舞台はこれはこれで満足度の高いものでした。とは言え、これからあと何年アリーナが現役でいられるかと考えると、今回のチャンスを逃したことは大きい。1日も早く怪我を治して、あらためて来日の機会を作ってくれることを切に望みます。
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配役
国王フロレスタン24世 | : | ジョナサン・ペイン |
王妃 | : | エイヴァ・メイ・ルウェリン |
オーロラ姫 | : | エリサ・バデネス(アリーナ・コジョカル代演) |
フロリムンド王子 | : | マチアス・ディングマン |
カタラビュット(式典長) | : | ローリー・マッカイ |
カラボス | : | ダリア・スタンチュレスク |
リラの精 | : | アイリッシュ・スモール |
プロローグ | ||
美しさの精 | : | シャン・ヤオキアン |
お付きの騎士 | : | マイルズ・ギリヴァー |
誇らしさの精 | : | 淵上礼奈 |
お付きの騎士 | : | 伊藤陸久 |
謙虚さの精 | : | ラケレ・ピッツィロ |
お付きの騎士 | : | ヤシエル・ホデリン・ベロ |
歌の精 | : | オリビア・チャング=クラーク |
お付きの騎士 | : | エンリケ・ベヘラノ・ヴィダル |
激しさの精 | : | ベアトリス・パルマ |
お付きの騎士 | : | ウー・シュアイルン |
喜びの精 | : | セリーヌ・ギッテンス |
お付きの騎士 | : | ファン・ハオリアン |
カラボスのお付きの騎士 | : | ノア・コスグリフ / カラム・フィンドリー=ホワイト / オーガスト・ジェネラリ / トム・ヘイゼルビー / ガス・ペイン / ハビエル・ロハス |
リラの精のお付き | : | アリサ・ガルカヴェンコ / テッサ・ホッグ / フリーダ・カーデン / アレクサンドラ・マニュエル / 杉浦優妃 / ソフィー・ウォルターズ |
第1幕 | ||
4人の王子 | : | マイルズ・ギリヴァー / ヤシエル・ホデリン・ベロ / オーガスト・ジェネラリ / ガブリエル・アンダーソン |
オーロラ姫の友人 | : | ロザーナ・イリー / 淵上礼奈 / テッサ・ホッグ / フリーダ・カーデン / マイレーヌ・カトッシュ / 杉浦優妃 |
ガーランド | : | アリサ・ガルカヴェンコ / イザベラ・ハワード / ラケレ・ピッツィロ / マティルデ・ロドリゲス / アミリア・トンプソン / ルーシー・ウェイン / ジャック・イーストン / ライアン・フィリックス / カラム・フィンドリー=ホワイト / オスカー・ケンプシーニフォッグ / ガス・ペイン / ウー・シュアイルン |
第2幕 | ||
伯爵夫人 | : | イザベラ・ハワード |
王子の側近 | : | ルイ・アンドレアセン |
第3幕 | ||
パ・ド・カトル | : | ロザーナ・イリー / ラケレ・ピッツィロ / エンリケ・ベヘラノ・ヴィダル / ウー・シュアイルン |
長靴を履いた猫と白い猫 | : | ガス・ペイン / 杉浦優妃 |
青い鳥とフロリナ王女 | : | 伊藤陸久 / ベアトリス・パルマ |
赤ずきんと狼 | : | テッサ・ホッグ / ルイ・アンドレアセン |
グラン・パ・ド・ドゥ | : | エリサ・バデネス - マチアス・ディングマン |
- 指揮:ギャヴィン・サザーランド
- 演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団