Dream Theater
Imp. 946
2026/02/25
日本武道館でDream Theaterのライブ。私にとって彼らの姿を見るのは2017年以来9年ぶりですが、そのときのJames LaBrieのボーカルがかなり厳しかったので、2023年春の来日を見送ったのと同じように今回のチケットをとることもかなり迷いました。ただ、このコンサートは彼らの結成40(=946X)周年記念ツアーということですし、何より2010年にバンドを離脱していたMike Portnoyが2023年秋に復帰してから初めての日本でのライブなので、覚悟を決め大枚をはたいてチケットを手に入れてこの日を迎えました。


この日は朝から冷たい雨が降っており、 余ったチケットを買ってくれたりチケットがないファンに譲ってくれる優しいおじさんたちの姿は見当たらず。閑散としているグッズ売場を横目に定刻(19時開演)30分前の武道館に入りました。

今日の座席はアリーナ席の左端に近い方(A-2ブロック)で、若い頃ならアリーナと聞けば大喜びでしたが、この歳になると立ちっぱなしはツラい。ましてやこのライブは途中休憩ありの長丁場であることがわかっているので、やれやれという気持ちで着席しました。ここから振り返ってみたところでは客席はほぼ満員で、Dream Theaterの人気の高さを窺わせましたが、今回のこの盛況ぶりの理由のかなりの部分は2008年以来18年ぶりに日本武道館に戻ってきたMike Portnoyによるものだろうと思いますし、実際にそのことを実感するライブになりました。
BGMが映画「サイコ」の「Prelude」になって音量が上がり、そしてこの曲が終わると同時に照明が落ちると共に聞こえてきたのは、あのイントロでした。
Metropolis Pt. 1: The Miracle and the Sleeper
幕が切って落とされると共に湧き起こる地響きのような歓声と、最大音圧での演奏、光と映像の洪水。シルバーに輝くドラムセットの向こうに陣取るMike Portnoyが聴衆を煽り、これに反応よく応える客席。James LaBrieは、さすがに最高音までは出ないもののそれでも声自体はよく出ているようですし、John Myungが腕をリラックスさせるように高く掲げてから見せどころのベースのタッピングソロをしっかり決めて歓声を集めます。これこれ、このステージ上と客席が一体となって気圧を10倍くらいに高める感覚こそがDream Theaterのライブです。そしてJames LaBrieが聴衆に呼びかける短いMCを挟んで、曲はこの曲のエンディングからシームレスに「Overture 1928」へと移ります。
Metropolis Pt. 2: Overture 1928 / Strange Déjà Vu / Through My Words / Fatal Tragedy
Jordan Rudessが加入して最初にリリースされた『Metropolis Pt. 2: Scenes from a Memory』を初めて聴いたとき、随所に聞かれる彼の技巧とオーケストレーションのセンスに圧倒されたものですが、そのエッセンスが詰まった「Overture 1928」はこのライブでもJordanの見せどころとなりました。いやー、かっこいい。続く「Strange Déjà Vu」以下の歌モノではてJames LaBrieと共にMike Portnoyも盛んに歌う。よほど歌うことが好きなのでしょうが、あれだけ叩きまくっていながら同時にコーラスをつけられるというのは異常です。
この「Metropolis Pt. 2」前半セクションが終わったところでJames LaBrieによるきちんとしたMCが入り、そこでJamesがオリジナルラインナップの一員としてのMike Portnoyを紹介すると、地鳴りのような歓声と拍手が上がりました。彼の後任であり前任でもあるMike Manginiの功績は認めつつ、それでもMike Portnoyの帰還を誰もが心から歓迎していることは、このデシベルの高さからも明らかです。
The Mirror
Kick Ass AlbumからのKick Ass Trackだという言葉を受けてJohn Petrucciのギターがガガガン、ガガガンとリフを刻み始め、アルバム『Awake』からことにヘヴィーな「The Mirror」。エンディングのピアノのフレーズの後に原曲にはない刺激的な音色と音圧のシンセサイザーソロが入り、さらにもはや何をやっているのかわからない音数の高速ギターソロが空間を埋め尽くしてスパッと終曲。
The Enemy Inside
Mike Mangini期のセルフタイトルアルバムから、スラッシュメタル系のイントロを持つこの曲。Mike PortnoyがどこまでManginiのストイックなドラミングを再現していたかはわかりませんが、とにかく強烈な演奏でした。
Peruvian Skies
一転してDerek Sherinian期の『Falling Into Infinity』から穏やかな曲調のこの曲。ここまで高速重金属系の曲が続いていたので、ここでの雰囲気の転換は助かります。不気味なピンクの光のゆらめきの中にJordan Rudessのラップスティールギターの妖しいソロが演奏されてからボーカルのパートに移りましたが、その後の緩やかなリズムの上でのクリーントーンのギターが奏でたのはPink Floyd「Wish You Were Here」のイントロ部分。さらに曲が進んだところでJames LaBrieの求めに応え聴衆が彼の振り出す拳に合わせて「Hi! Hi!」と蛮声を重ねる背後で演奏されていたのはMetallica「Wherever I May Roam」のテーマリフでした。
As I Am
第一部のラストは、John Myungのダークなハーモニクスベースリフからゆっくりと立ち上がるヘヴィメタリックな「As I Am」。スピードアップしてしばらく続くギターリフの間、Jordan Rudessもスティックを持ってシンバルをドラムセットの外側から叩いています。この曲は2004年の『Train of Thought』ツアーでの日本武道館公演でのオープニングナンバーで、このときのライブがDVDになったことから我々日本人にとっても縁の深い曲ですが、あれから22年がたってますますパワーアップしたJohn Petrucciの指が指板上を上へ下へと駆け巡る様子に圧倒されました。
ここで20分間の休憩となり、ステージ背後のスクリーンに「Let's All Go to the Lobby」と明るく歌うアメリカン・カートゥーンが流れたあとは、この40周年のシンボルマークを中心にこれまでのアルバムのモチーフが微妙に動く絵が投影され続けました。膝を休めようと席を離れず座っていると、BGMはマカロニウエスタンぽいものからムーディーなジャズ、そしてシュトラウス風のクラシカルなワルツへと移り変わり、このワルツが最後に盛り上がるところで音量がぐっと上がった次の瞬間、照明が落ちて第2部が始まりました。
In the Arms of Morpheus / Night Terror / Midnight Messiah / Bend the Clock / The Shadow Man Incident
第2部の前半は、最新作『Parasomnia』の楽曲群。「睡眠障害」という意味のタイトルの通り、このアルバムには眠りの過程における異常で望ましくない体験や行動に言及する曲が収録されており、映像もこれをビジュアル化したダークでホラーなイメージ(就寝しようとする若者、夢の中に浮かぶ霧の森と人影、恐ろしげな挿絵、宙に浮かぶ白い人々など)が展開します。
- In the Arms of Morpheus
- 「Overture 1928」に通じる序曲的な位置付けで、高速シャッフルで始まりシンセサイザーとギターが印象的なソロを聴かせるインストナンバー。なお「Morpheus」はギリシア神話に登場する眠りと夢の神の名です。
- Night Terror
- まさに悪夢のようにダークな曲調で始まり、一転してヘヴィなリフでドライブし始める重い曲。まるでひきつけを起こしているようなギターとシンセサイザーのユニゾンが強烈で、その後の広い音域を行き交うギターも悲鳴のようですが、ボーカルも現在の声域に合わせて作られた曲だけに絶好調。John Petrucciも要所でコーラスに加わりました。曲名は夜驚症(就寝後、突然叫び声を上げてパニック状態で起きる症状)のこと。
- Midnight Messiah
- ここでJames LaBrieから、この日、雑誌『BURRN!』によって新譜を「Album of the Year」として表彰されたことを感謝するアナウンスがなされてから、『Parasomnia』のKiller Trackと紹介があって「Midnight Messiah」が演奏されました。さまざまに変化するリズム、またしても展開される高速ユニゾン。恐ろしい……。
- Bend the Clock
- 『Parasomnia』に「Midnight Messiah」の次にブリッジ的に置かれている「Are We Dreaming?」をさらに短くabridgeして、James LaBrieが客席にスマホの光の海を作るよう促しつつギターのアルペジオから穏やかに始まるこの曲。7/8+8/8のリフがなんとも言えず心にしみてきます。避け難い悪夢に囚われ、時間を戻したいともがく様子がバラード調で歌われ、エモーショナルなギターソロがその切迫した雰囲気を巧みに引き継いで見せ場を作りました。これは掛け値なしにいい曲だなぁ。しかも(当然ながら)原曲のようなフェードアウトではなく、しっかり曲にケリをつけるアレンジが感動的です。
- The Shadow Man Incident
- オルゴールの映像を前に置いて、金縛りにあい「The Shadow Man」の不気味な姿に怯えさせられる果てしない夜を描く長尺の曲。緩徐部分では三声のコーラスが置かれ、ドラムセットの上手側奥にThe Shadow Manの巨大な人形がおそらくエアによって立ち上がりました。テンポアップしたシャッフル系のリズムの中でボーカルパートが終わるとスクエアなリズムに変わって手拍子が求められ、オクターバーを効かせたギターのどこかエスニックな旋律から7/8.6/8,8/8を交えた複雑なリズムのリフ、ギターとのユニゾンを経てのラテンっぽいピアノソロ、さらにタッピングを多用した高速ギターソロ。一瞬のブレイクを置いてミドルテンポに戻り大団円へとなだれ込みます。
今回のライブに向けた予習が追いつかず、実は『Parasomnia』の楽曲に十分馴染んでいなかったのですが、この日ここで初めて聴いてもどの曲も十分以上に楽しめたのは、彼らのソングライティングのセンスと共に「テクニックは正義」と押し切れる技巧あってのことです。
Octavarium
『Parasomnia』だけで第2部が終わるかと思いきや、さらに20分越えの大曲「Octavarium」が待っていました。この曲はJordan Rudessが大活躍で、まずはContinuumを使った原曲に対し質量とも数倍増しの独奏を展開し、続いてラップスティールギターによるテーマから鍵盤へ。中でもアコギサウンドでのアルペジオと抒情的なボーカルからリズム隊が入って曲調が大きくなり、John Myungの軽く歪みがかかったベースがドライブ感をもたらした後にやってくるMinimoog風シンセサイザーでのポルタメントがかかった強靭なソロは70年代プログレファンには感涙もの、Jordanよくやってくれた!という感じです。その後も緊張感溢れるスピーディーな演奏の上でのボーカルの掛合いあり、ギター・シンセサイザーのユニゾンでの超絶高速フレーズあり、James LaBrieの絶唱に客席が最大デシベルの歓声で応じる場面あり。最後は雄大なストリングスの上でのギターソロで締めくくられました。うーん、すばらしい。
ちなみにアルバム『Octavarium』をフィーチュアしての2006年のツアーにも私は参戦しているのですが、この曲をライブで通して聴いたのはこれが初めてです。なぜならそのときのライブでは演奏された曲の半分がDeep Purple『Made in Japan』の再現だったので……。
Metropolis Pt. 2: The Spirit Carries On
ここからアンコール。再び『Metropolis Pt. 2』に戻って、主人公Nicholasが目を覚ます前に穏やかに歌われる3拍子の曲。スマホのライトの海の中でIf I die tomorrow, I'd be allright. Because I believe that after we're gone the spirit carries on.
というサビのフレーズやその後のスキャットが客席を交えた合唱となり、そのシリアスな歌詞にもかかわらず武道館内が一体となった多幸感の中で曲が終わりました。
Pull Me Under
Jordan Rudessが魔法使いハットをかぶって、やはり最後は定番の最終兵器であるこの曲。原曲と同じキーで演奏しているのでさすがにボーカルの高音がきつそうではありましたが、それでもここまで3時間近く見事なパフォーマンスを見せてくれたJames LaBrieを讃えながら彼の求めに応じて拳を突き上げてのPull me under
の大合唱となり、John Petrucciも曲の途中でステージ下手に出張してきてくれて周囲から一斉に歓声が上がります。最後にこの曲を聴ければ、もはや言うことはありません。

すべての演奏を終えて楽器を離れ、「雨に唄えば」をBGMとして聴衆の歓呼の声に応えるメンバーの表情は明るく、そんな中でJohn PetrucciがMike Portnoyの肩に手を掛ける姿には客席からひときわ大きな拍手が送られました。
この長時間のステージをひとときも緩むことなく、極度の集中力を求められる難曲の数々を演奏し続けた彼らのミュージシャンシップにこの場にいたすべての聴衆が満足と敬意を覚えたであろうことは、バンドメンバーがステージを去りBGMが終了して館内が明るくなり、場内アナウンスが公演終了を告げたときに図らずも湧き起こった拍手からも明らかです。効果的な映像と照明とレーザーが踊る中で、これぞロックと言いたくなる音量・音圧(特にMike Portnoyのツーバス!)にもかかわらず個々の楽器の音がしっかり客席に届けられ、客席も一体となってバンドの演奏についていった3時間。いいライブでした。
最後にこのライブに参戦しての疑問を一つ。「この人たちは、1日何時間練習しているんだろう?」
ミュージシャン
| James LaBrie | : | vocals |
| John Petrucci | : | guitar, vocals |
| Jordan Rudess | : | keyboards, lap steel guitar, continuum |
| John Myung | : | bass |
| Mike Portnoy | : | drums, vocals |
セットリスト
- Metropolis Pt. 1: The Miracle and the Sleeper
- Metropolis Pt. 2: Overture 1928
- Metropolis Pt. 2: Strange Déjà Vu
- Metropolis Pt. 2: Through My Words
- Metropolis Pt. 2: Fatal Tragedy
- The Mirror
- The Enemy Inside
- Peruvian Skies
- As I Am
--- - In the Arms of Morpheus
- Night Terror
- Midnight Messiah
- Bend the Clock
- The Shadow Man Incident
- Octavarium
--- - Metropolis Pt. 2: The Spirit Carries On
- Pull Me Under
これらの曲をディスコグラフィーに当てはめてみると、次のようになりました。
| 発表年 | アルバム | 曲上記リストの番号 |
|---|---|---|
| 1989 | When Dream and Day Unite | |
| 1992 | Images and Words | 1,17 |
| 1994 | Awake | 6 |
| 1995 | A Change of Seasons | |
| 1997 | Falling into Infinity | 8 |
| 1999 | Metropolis Pt. 2: Scenes from a Memory | 2-5,16 |
| 2002 | Six Degrees of Inner Turbulence | |
| 2003 | Train of Thought | 9 |
| 2005 | Octavarium | 15 |
| 2007 | Systematic Chaos | |
| 2009 | Black Clouds & Silver Linings | |
| 2011 | A Dramatic Turn of Events | |
| 2013 | Dream Theater | 7 |
| 2016 | The Astonishing | |
| 2019 | Distance Over Time | |
| 2021 | A View from the Top of the World | |
| 2025 | Parasomnia | 10-14 |
今回の来日では日によって曲の入替えがあったようですが、こうしてみると40周年ツアーとは言いつつ(時間的な制約もあってか)過去のアルバムからまんべんなく選曲しているわけではなく、最新作である『Parasomnia』がしっかりアピールされていること、人気作『Images and Words』より『Metropolis Pt. 2』が重視されていること、そして1曲だけとは言えMike Mangini期(2010-2023)の曲が含まれて彼に敬意を示していることがわかります。
個人的には『Falling into Infinity』から選ぶなら「New Millennium」か「Lines In The Sand」を聴きたかったですが、全体の流れというものもあるので致し方ないところ。また『Six Degrees of Inner Turbulence』の「About to Crash」もお気に入りなのですが、これは組曲の一部なのでこれだけ取り上げるわけにもいくまい……と思いつつsetlist.fmで調べてみたら2022年のツアーでこの曲単体を取り出して演奏していました。なんだ、それなら演ってくれればよかったのに。しかし、ではその代わりに今日のセットリストからどの曲を削るんだ?と聞かれると、回答に窮してしまうのですが。