Toto

2023/07/21

日本武道館で、東京ではこの日1回きりのTotoのライブ。2019年のツアーにも参加していたサポートのWarren Hamが健康問題により不参加となったことが直前にアナウンスされましたが、それでも残る6人で7月10日の福岡を皮切りに金沢・名古屋・大阪・広島・仙台・盛岡と順調にステージをこなして、いよいよこれが日本での最後のステージです。

今回のツアーのメンバーの中でToto結成時のメンバーはギタリストのSteve Lukatherただ一人、それに3代目のヴォーカリストでバンドの全盛期に『Fahrenheit』『The Seventh One』の2作品の創作に加わったJoseph Williamsを合わせてこの2人をオリジナルメンバーとみなすとして、残るキーボード2人、ベース、ドラムはサポートメンバーということになりますが、パンフレットの表紙には最上部に「David Paich presents」の文字があり、中にもDavid Paichの近影と日本のファンへのアナウンスが記されていました。そのあたりの経緯については最後に触れることにします。

メンバー構成はさておき日本でのTotoの人気は相変わらずで、グッズ売場には長蛇の列ができ、次々にアイテムの売切れが告げられていました。

そして開演10分前には日本武道館の中はほぼ満員。ウドーの力量ももちろん大したものですが、S席17,000円・A席16,000円という強気の価格設定でのこの集客には脱帽です。ちなみにこの数日後に同じ日本武道館でライブを行うMr. Bigの方はS席13,000円・A席12,000円(追加公演あり)ですが、このあたりはどういう考え方でウドーが価格設定しているのか聞いてみたいものです。

さて、ステージの方はほぼ定刻通りに客電が落ち、青く照らされたステージの上に次々にメンバーが姿を現すとアリーナは早くも総立ち。最後に見事に白髪になったLukeが出てきてスポットライトに照らされながら「コンバンワ、トーキョー」と挨拶すると強烈な音圧の歓声と拍手が館内を満たし、この一瞬で日本武道館の満員の聴衆が一つにまとまってしまいました。

Orphan
LukeのアルペジオとXavierのボーカルからおもむろに始まったのは2015年の『Toto XIV』からの選曲で、まずはキーボードの2人とドラムのコーラス能力を誇示する感じ。キーボードの1人は前回もDavid Paichの代わりを勤めたDominique "Xavier" Taplinで、下手前方でLukeの隣にキーボードを2段重ね。もう1人のキーボードは初お目見えのSteve Maggioraで、Warren HamがいるときはXavierの後方にいることが多いようですが、今日は中央後列に4台のキーボードをL型に配置しています。しかし、リードボーカルのJoseph Williamsの声の存在感はやはり抜群で、仙台・盛岡に続いて3日連続のステージであるにもかかわらずよく声が出ています。
Afraid of Love
イントロのギターフレーズが流れただけで客席爆発。Lukeが歌うノリの良いこの曲もTotoのキラーチューンと言ってよいのですが、一見ギター中心の曲と見せてXavierのピアノとSteve Maggioraのブラス系ロングトーンの組合せが曲を牽引するバランスになっていました。
Hold the Line
ドラムの短いイントロから「Hold the Line」を特徴づけるピアノの連打が入ってまたまた大きな歓声が上がり、アリーナだけでなく1階席でも立ち上がる者が続出。しかし明らかにリアルタイムではTotoを聴いていないと思われる若い女性たちがノリノリで「ホールドザラーイン!」と拳を突き上げているのが不思議です。
Falling in Between
原曲のリードボーカルはBobby Kimballの暑苦しい熱唱でしたが、ここではSteve Maggioraが彼のサイトに書かれている通りsultry smokey voiceでやはり熱唱。
I'll Be Over You
LukeのMCが入り「すべてのbeautiful Japanese girlsのために」と前置きされてこの曲。ここまでアップテンポな曲が続きましたが、この日初めてのじっくりしたバラードに客席ではスマホの光の海が生まれました。
じっくりした曲とは言っても、上手袖のスタッフ席はこまめにあれこれと操作していて忙しそう。この規模のライブがステージ上のミュージシャンによる演奏だけでなく巨大なシステムとして運営されていることがよくわかります。
Keyboard Solo
前の曲からシームレスにXavierのピアノソロ。リリカルなフレーズもあればKeith Emersonを連想される強い左手のリフもありますが、全体としてジャズよりクラシックに寄った音遣いだったように感じました。
White Sister
Xavierのピアノソロが静かに連打に変わって他のメンバーがステージに戻って、再びアップテンポな「White Sister」。Joseph Williamsの伸びやかなボーカルの最後にSteve Maggioraがシャウトを入れたり、Lukeの弾きまくりギターソロの終わりでリズムが倍速になるところではXavierが「鏡獅子」の毛振りのようにドレッドヘアを振り回したり。
Georgy Porgy
「fake beer」をぐいっと飲んでからLukeがファーストアルバムの曲をXavierがリアレンジしたものだと紹介し、ドラマーのRobert "Sput" Searightが「イチ、ニ、サン、シ!」とカウントしてファンキーなリズムパターンにSteve Maggioraのオルガンが絡み、Lukeが歌い出したところでやっとこの曲だと認識。途中からのリズムは原曲に近いもので、終盤の女性ボーカルがフェイクを交えて熱唱するパートもSteve Maggioraが身振りを入れながら熱く歌っていました。
Pamela
Joseph Williamsの「コンバンワー、トーキョー。ドウモアリガトウ。We love Japan!!」とクルーへの感謝の言葉に続いて1988年のアルバムに戻るというアナウンスからキャッチーな「Pamela」。ほぼ原曲通りのアレンジですが、終わりの方はギターとピアノの掛合いになってLukeとXavierがお互いの音をよく聴いている様子が伝わってきました。
Kingdom of Desire
故人となったMike Porcaro、Jeff Porcaro、Joe Porcaroに捧げる曲だと言って天上を指さしたLuke。ステージ上が赤い光に包まれて、スローテンポなギターリフからLukeのボーカルが入り、Jeff Porcaroが参加した最後のアルバム『Kingdom of Desire』からタイトルチューン。陰鬱な歌詞を持つ曲ですが、ここでのLukeの4分間にわたるギターソロはそこまでの曲調に合わせたゆったりした音遣いから徐々に音数を増やしてやがて高みへと登り詰めていくエモーショナルなもの。これには固唾を呑んで聞き惚れました。
Drum Solo
前曲のコーダ的なシンセサイザーのSEが消えると共にSputのスネアロールが始まり、そこからタム移動の速さをひとしきりアピールした後にMCを入れて、ドラムと観客のコールアンドレスポンスで「イチ、ニ、サン、シ!」。ドラムの出音も声の方も通りがいいなぁと感心しているうちにテンポが徐々に速くなっていって、観客がついていけなくなってからは思いのままにシンバルとスネアを高速で叩きまくって終了です。
Waiting for Your Love
『Toto IV』からソウルフルなナンバー。この曲をライブで聞くのは2002年以来です。冒頭の高音部のリードボーカルをSteve MaggioraがとってJoseph Williamsとのツインボーカルで曲を牽引し、ミュージックビデオでSteve PorcaroがYamaha DXでの速弾きの冴えを見せていたブラス系のシンセソロも彼が難なくこなしてXavierのピアノソロに繋げていましたが、ここにピアノ音を持ち込むのは違和感があり、やはりブラス系の音でまとめてほしかったと思いました。一方、ここまで着実な演奏を重ねてきていたJohn Pierceが、この曲では実によくドライブするベースを聞かせました。
I'll Supply the Love
一転してハードなギターリフのイントロからアップテンポなこの曲にアリーナは盆踊り状態。この熱気に満ちた曲を原曲通り短く終えた後にLukeがメンバー紹介を行い、その中でベースのJohn Pierceと親密に肩を組みながら、同郷で同じときに母親のお腹の中にいたので生まれる前からの旧友であり、LAでのfirst call session musicianにしてHuey Lewis & The Newsのメンバーであると彼のことを紹介していました。また、Joseph Williamsの紹介の場面ではJosephが「Hakuna Matata」の一節を歌いましたが、これは彼が映画『ライオン・キング』の中で青年シンバが歌う場面の声を当てていたからです。
Home of the Brave
David Paichの味のあるボーカルが魅力の曲ですが、そのパートはWarren Hamに代わってやはりSteve Maggioraが代替。演奏面ではXavierの速弾きシンセフレーズがとりわけ目立つアレンジになっていました。
Rosanna
オープンハンドで叩かれるロザーナ・シャッフルから、Totoの代表曲。Sputはこれ以前の曲でもところによりオープンハンドを駆使していましたが、この曲でもスネアのビートを強調するパートではハイハットのみならず左手側のライドも使用してオープンハンド、リムショットを用いてリズムキープする場面ではクロスハンドと奏法を使い分けていました。また曲の途中でJoseph Williamsはステージを歩き回ってメンバーにちょっかいを出していましたが、ギターソロの際にはSteve Maggioraのキーボードブースに上がって2人でオルガンの音を重ねていました。
Africa
本編最後は「Rosanna」と共にTotoのライブでは欠くことのできないこの曲。Sputが叩き出すスネアとタムの複雑なパターンがマルチプレイヤーでパーカッションも担当するWarren Hamの不在の影響を感じさせず、2人のキーボードプレイヤーがユニゾンで弾くマリンバ・カリンバフレーズと相俟って東アフリカの空気感をステージ上に再現します。ボーカルはDavid PaichのパートもBobby KimballのパートもJoseph Williams。最後に客席とのコール&レスポンスが入るのはお約束です。
With a Little Help From My Friends
アンコールは大きなのノリの3拍子にアレンジされたThe Beatlesの「With a Little Help From My Friends」。LukeとJoseph Williamsがメインボーカルを分け合い、Steve Maggioraがアドリブを重ねて壮大なゴスペル曲に変貌していました。もっともそのまましんみり終わるわけではなく、終盤に倍速縦ノリの高速パートを置いて盛り上がりを見せてからの大団円です。

Steve Lukatherは、Toto40周年を記念して世界を回った「40 Trips Around the Sun」ツアーが終了した2019年10月にTotoの活動停止をアナウンスしていました。彼の言によれば、その背景には彼とDavid PaichがJeff Porcaroの未亡人とMike Porcaroの未亡人からバンドの名義使用権(つまりTotoとしての活動に伴う収益の配分)を巡って訴訟を起こされ、裁判の結果は両未亡人の主張を認めるものとなったそうですが、このことが二人を疲弊させていたという事実があったようです。この手の大物バンドの訴訟沙汰と言えばすぐに連想されるのはJourneyやStyxですが、1970-80年代に活躍し貴重な楽曲資産を有するバンドの宿命のようなものなのでしょうか。

一方、この時期にLukeとJoseph Williamsはそれぞれソロアルバムを制作し、これらをベースにジョイントでのツアーを企画していたところ、結果はどうあれ訴訟は決着したのだからこのツアーをToto名義で実施すべきだという意見が出て、David Paichも(自身は体調に問題がありツアーに参加できないものの)後押ししてくれたためにサポートメンバーを集めてTotoとしての新たなツアーに乗り出したというのが事の顛末で、新体制の最初のお披露目は2020年11月のオンラインライブでした。

今回の来日は上記のオンラインライブと共にアナウンスされたワールドツアー(「The Dogz of Oz」→開始時期が2021年から2022年に延期)の一環で、彼らは昨春はUSA(Journeyの前座)、昨夏はヨーロッパ、そして今春再び北米を回ってから日本にやってきています。もともと地力のあるミュージシャンたちを集めている上に既に相当の場数を積んでからの来日なのでバンドとしての一体感はこの上を求めるべくもないレベルに達しており、しかもいわゆるトリビュートバンドのような原曲の再現にとどまるのではなく新たな解釈や新たな魅力を楽曲に吹き込んで聴衆の前に提示してみせたのは、たとえオリジナルメンバーがわずかとなったとしてもTotoを名乗れるバンドだけに認められた特権です。

しかし果たしてTotoというバンドに「この先」があるのかと言えば、「Totoがスタジオ・アルバムを作ることはもうない」とLukeが公言している中ではそれはなさそう。つまり、彼の言を信じる限り今回のライブがTotoというバンドの見納めとなる可能性は大だということになるのですが、もっともTotoは2019年の前に2008年にも活動休止を発表して後にこれを撤回した「前科」を持っていますし、この日の演奏を聴く限りLukeもJoseph Williamsも現役のミュージシャンとしての十分な力量を維持していましたから、ある日突然思わぬかたちでTotoとしての新しい作品をリリースしないとも限りません。今回のライブでは終演後に「See you next time.」という言葉はありませんでしたが、やはり「next time」の到来を期待したいと思いますし、そのときには今回のような過去の楽曲だけでなく新曲をセットリストに組み込んで、文字通り新生Totoの音楽を聞かせてもらいたいものです。

ミュージシャン

Steve Lukather guitar, vocals
Joseph Williams vocals
Dominique "Xavier" Taplin keyboards, vocals
Steve Maggiora keyboards, vocals
John Pierce bass
Robert "Sput" Searight drums, vocals

セットリスト

  1. Orphan
  2. Afraid of Love
  3. Hold the Line
  4. Falling in Between
  5. I'll Be Over You
  6. Keyboard Solo
  7. White Sister
  8. Georgy Porgy
  9. Pamela
  10. Kingdom of Desire
  11. Drum Solo
  12. Waiting for Your Love
  13. I'll Supply the Love
  14. Home of the Brave
  15. Rosanna
  16. Africa
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  17. With a Little Help From My Friends

これらの曲をディスコグラフィーに当てはめてみると、次のようになりました。

発表年 アルバムタイトル 上記リストの番号 2019年の選曲
1978 Toto 3,8,13 ***
1979 Hydra 7  
1981 Turn Back   *
1982 Toto IV 2,12,15,16 ****
1984 Isolation   *
1984 Dune   *
1986 Fahrenheit 5 *
1988 The Seventh One 9,14 **
1992 Kingdom of Desire 10 *
1995 Tambu   *
1999 Mindfields   *
2002 Through the Looking Glass   *
2006 Falling In Between 4  
2015 Toto XIV 1  
2018 40 Trips Around the Sun   *
2018 All In 1978 - 2018   *

2019年のライブのときにもこうした整理をしていて、そのときのセットリストについて『Hydra』『Falling In Between』からの曲が含まれていないのは少し意外です。『Hydra』からなら「99」か「White Sister」、『Falling In Between』からならタイトルナンバーが候補になりそうと私は書いていたのですが、見事にその「予言」通りの選曲になっていました。